広告アカウント所有権・権限管理の完全ガイド|代理店乗り換え・インハウス移行で失敗しないための全知識

広告アカウントの所有権と権限管理は、デジタルマーケティングの運営において最も見落とされやすいにもかかわらず、最も重大な課題です。代理店から別の代理店へ乗り換える際、あるいはインハウス運用へ移行する際に「アカウントにアクセスできない」「データが引き継げない」というトラブルが発生するケースが後を絶ちません。こうした問題の多くは、初期段階での所有権の定義と権限管理の甘さに起因しています。
本来であれば、広告アカウントは蓄積された運用データや入札の学習データを含む、ビジネスの重要な資産です。Google広告、Meta広告、Yahoo広告など、プラットフォームごとに異なる所有権の概念と権限管理の仕組みが存在しており、これらを正しく理解して運用することが必須です。特に複数の広告媒体を同時に運用する企業にとって、統一的な権限管理ポリシーを構築することは、情報セキュリティ、法令コンプライアンス、そして事業継続性とリスクマネジメントの観点から極めて重要です。
本記事では、ハーマンドットが100社以上の広告アカウント移管支援を通じて得た知見をもとに、Google広告、Meta広告、Yahoo広告における所有権と権限管理の全体像を解説します。代理店乗り換えやインハウス移行を検討している企業の担当者様、これから広告運用体制を構築する企業様は、ぜひ本記事を参考に、トラブルのない運用基盤を整備してください。
目次
広告アカウントの所有権とは何か
広告アカウントの所有権とは、特定の広告プラットフォーム上で、そのアカウントに対する最高権限を有する者を指します。単にログインIDを持っているだけではなく、アカウント設定の変更、ユーザーの追加・削除、決済情報の管理、さらにはアカウント削除に至るまで、すべての操作を実行できる権限のことです。
重要な点として、所有権の定義はプラットフォームごとに異なるという点があります。Google広告では「管理者」、Meta広告では「ビジネスアカウント所有者」、Yahoo広告では「アカウント管理者」と呼ばれ、それぞれ権限の範囲や委譲方法が異なります。企業が複数の広告プラットフォームを運用する場合、各プラットフォームの所有権の定義を理解し、統一的なガバナンス体制を構築することが重要です。
多くの企業が陥りやすい誤りは、「代理店がアカウントを作成したから代理店が所有者である」という認識です。実際には、契約内容や登録時の情報によって、法的・技術的な所有者が異なる可能性があります。これが後々の権限トラブルや資産の喪失につながるため、契約時点で明確に定義しておくことが不可欠です。広告アカウントは単なるツールではなく、積み上げられた膨大なキャンペーン実績、顧客セグメント、コンバージョンデータなどの知見の集積です。この資産の所有者が曖昧であると、事業リスクが増大するのです。
所有権が問題になる3つの典型シーン
広告アカウントの所有権問題は、特定のビジネスシーンで顕在化します。以下の3つは、ハーマンドットが支援してきた実案件の中でも特に多い事例です。
代理店の変更時にアカウント移管ができない
最も多いトラブルは、代理店を乗り換える際に前任者からアカウントの移管を受けられないケースです。これは代理店が登録アカウント所有者として設定されているために、後継代理店がアカウント内の重要な設定を変更できないという状況です。広告媒体の変更、予算配分の調整、トラッキング設定の修正なども、すべて前任者の承認が必要になり、運用効率が大きく低下します。
実例としては、中堅IT企業が3年利用していたGoogle広告アカウント(月額予算300万円)を新しい代理店に乗り換える際、前任代理店の退職者がアカウント管理画面にアクセス不可になってしまい、3ヶ月間キャンペーン最適化ができなかったというケースがあります。この間、CPCが30%上昇し、失われた機会損失は約200万円に上りました。この事例は決して稀ではなく、代理店変更時の権限移譲が不十分であるために、数ヶ月単位で新規キャンペーンの作成ができないという企業が多く存在しています。
代理店の倒産やサービス終了による突然のアクセス喪失
小規模な代理店と契約している場合、代理店の経営難や事業廃止により、突然広告アカウントへのアクセスが失われるリスクがあります。所有権が代理店側にあると、企業は代理店への依存から逃れられず、事業継続性が大きく損なわれます。このリスクは特に、単一の代理店に全面委託している企業において深刻です。
実際に、2023年にある広告代理店が経営悪化で急遽サービスを終了した際、100社以上のクライアント企業が広告アカウントへのアクセス権を失い、緊急対応を余儀なくされました。その中には、月額1000万円以上の予算を運用していた企業も含まれていました。このような事態に直面した企業は、数週間のキャンペーン停止を余儀なくされ、売上機会の喪失だけでなく、顧客獲得経路の完全な断絶に陥ります。こうしたリスクを回避するためには、最初から企業側が所有権を保有することが極めて重要なのです。
インハウス運用への移行時に権限設計が曖昧になる
外部代理店から自社運用(インハウス)へ移行する際、権限の引き継ぎが不明確なままになるケースも少なくありません。複数の従業員にアクセス権を付与する際に、誰がどこまでの権限を持つのか定義されていないと、セキュリティリスクと運用効率の低下の両方の問題が発生します。
例えば、営業部門の従業員に予算管理画面へのアクセスを付与したまま転職して、退職後も外部からアクセスされるといった事態も想定されます。適切な権限管理体制がなければ、こうした人的なセキュリティリスクを防ぎきれません。さらに、複数の従業員が管理者権限を持っている場合、重要な設定が誰に伝わることなく変更されるといったガバナンスの問題も発生します。インハウス移行は企業の自律性を高める一方で、適切な権限管理ルールの構築が不可欠な課題となります。
Google広告のアカウント所有権と権限管理
Google広告は企業の多くが利用している主流の検索広告プラットフォームです。Google広告の所有権管理には「Googleアカウント」「Google広告アカウント」「管理画面アクセス」の3層構造があり、各層ごとに権限委譲の仕組みが異なります。この構造を理解することは、Google広告の所有権を適切に管理する上での第一歩です。
Google広告の権限構造と「管理者」の役割
Google広告において最高権限を持つのは「管理者」です。管理者は、アカウント設定の変更、ユーザーの追加・削除、支払い方法の設定、キャンペーンの作成・削除、さらにはアカウント全体の削除まで、すべての操作が可能です。特に注意が必要なのは、管理者権限は最大20人まで付与可能である一方、一度削除されると復旧が困難という点です。
管理者以下には、「標準」「編集」「閲覧のみ」という3つのレベルの権限が存在します。標準ユーザーはキャンペーン編集可能、編集ユーザーは標準より制限的、閲覧のみユーザーはレポート確認のみとなります。組織規模が大きくなるほど、これらの権限を適切に配分することが重要です。特に重要な決定(予算変更、トラッキング設定、アカウント構成の変更)は管理者のみが可能としておくことで、運用の混乱を防ぐことができます。
Google広告の所有権を企業側に確保するための方法
代理店契約時にトラブルを防ぐため、以下の対策を取ることが推奨されます。
まず最初に、アカウント登録時に企業のGoogleアカウント(可能であれば企業独自のドメインメール)を使用することが重要です。代理店のメールアドレスではなく、企業側が管理できるアカウントでGoogle広告に登録することで、所有権は法的・技術的に企業側に帰属します。この初期段階での対応は、後々のトラブル予防において最も効果的です。
次に、「Google広告アカウントアクセス権の管理」画面から、企業側の担当者を管理者として明示的に付与しておくことが必須です。代理店側は「標準」権限で運用を委託し、キャンペーン作成やレポート確認は代理店側で行いつつも、アカウント設定変更など重要な決定は企業側が行える体制にします。この二重管理体制により、代理店の運用効率と企業の統制が両立します。
さらに、定期的に付与されているユーザー一覧を確認し、退職者や不要になった代理店スタッフのアクセスは速やかに削除する必要があります。多くの企業はこのメンテナンスを後回しにしてしまい、気づかぬうちにセキュリティリスクが蓄積されています。年1回の権限監査を組織的に実施することで、こうした問題を未然に防ぐことができます。
Google広告の管理者権限が奪われた場合の復旧手順
万が一、代理店が管理者権限を削除してしまったり、企業側の担当者が誤って削除されたりした場合、復旧には手順が必要です。Googleの公式サポートに問い合わせることで、アカウント所有権の確認と権限の再付与が可能です。ただし、確認には数日から数週間要する場合があり、その間キャンペーン運用が停止するリスクがあります。
確認プロセスでは、Googleは企業の身分証明書や登記簿謄本など、法的な所有者であることを証明する書類を求めることがあります。この過程を円滑に進めるため、アカウント作成時に企業の正式な登録情報をGoogleに提供しておくことが重要です。こうした事態を避けるため、複数の管理者を常時配置しておくことが最良の防止策となります。
Google広告のカスタム権限セットを活用した柔軟な権限管理
Google広告は「カスタム権限」という機能を提供しており、管理者以下の権限レベルについて、より詳細な設定が可能です。例えば、レポート閲覧と分析はできるが、キャンペーン予算の変更はできない、というようなカスタマイズが実現できます。この機能を活用することで、組織内の職務分掌に最も適した権限配分が実現でき、セキュリティと運用効率が大きく向上します。
具体的には、営業分析チームに「レポート・ビルダー機能のみアクセス可能」という権限を付与することで、キャンペーン設定に関する誤操作を完全に排除しながら、データ分析業務は効率的に実行できます。このようなカスタマイズを通じて、企業独自の権限管理体制が構築でき、Google広告の運用がより安定的になります。
Meta広告(Facebook・Instagram)のアカウント所有権と権限管理
Meta広告は、FacebookとInstagramの両プラットフォームに統一された広告管理システムを提供しています。Google広告とは異なり、Meta広告の所有権は「ビジネスアカウント所有者」という名称で、より厳密に定義されています。Metaは所有権をより厳格に管理しており、権限移譲のプロセスもより複雑で慎重に設計されています。
Meta広告の所有権:ビジネスアカウント所有者とは
Metaのビジネスアカウント所有者とは、ビジネスマネージャー内で最高権限を持つ者です。この所有者は、企業の法的な代表者または代表者から権限委譲を受けた者である必要があり、個人的な利便性ではなく、企業のビジネス上の最高権限者として位置づけられています。
重要な特徴として、所有者権限は移譲が可能だが、プロセスは慎重に設計されているという点があります。所有者が変更される際には、既存の所有者による承認と、新しい所有者側の受け入れ確認が必要です。これにより、無断での権限奪取を防ぐ仕組みが組み込まれています。この二重確認により、権限移譲に伴う誤操作や不正を防ぐことができます。
ビジネスマネージャーの権限レベルと運用体制
Metaビジネスマネージャー内の権限は、大きく「管理者」「編集者」「モデレーター」「求職者」の4段階に分かれています。管理者はアカウント設定変更が可能、編集者はキャンペーン編集が中心、モデレーターはコンテンツ管理や申請承認が主体、求職者は求人投稿に特化しています。
複数の広告媒体を運用する企業の場合、この階層構造を活用して、各部門や代理店に必要最小限の権限を付与することが推奨されます。例えば、クリエイティブチームは編集権限で十分、財務チームは閲覧権限のみ、というように分けることで、セキュリティと運用効率の両立が可能です。さらに、特定の広告アカウントのみへのアクセスを制限することも可能で、組織構造に応じた柔軟な権限管理が実現できます。
Meta広告の所有権移譲手順と注意点
代理店から企業への権限移譲は、ビジネスマネージャーの「設定」→「ビジネス情報」→「ユーザーの管理」から実行します。ここで新しい所有者候補を指定し、相手がMetaアカウント上でその指定を受け入れることで初めて権限移譲が完了します。
注意点として、権限移譲中は既存の所有者が権限を保有したまま(デュアル所有状態)となる期間が生じます。この期間は、セキュリティ監査やデータ引き継ぎの準備に充てるべき重要な時間です。移譲が完了するまで、新旧双方が協力体制を維持することが円滑な乗り換えの鍵となります。特に、ピクセル設定、カスタムオーディエンス、キャンペーン構成などの重要な設定についての引き継ぎドキュメント作成は、この期間に実行しておくべきです。
Meta広告の権限移譲では、相手方の受け入れが必須です。片方が指定しただけでは権限移譲は成立しないため、必ず相手の確認メッセージを待ってから、移譲完了と判定してください。
Metaビジネスマネージャーの二段階認証と追加のセキュリティ対策
所有権と権限管理を強化する上で、セキュリティ対策の実装も重要です。Meta広告では、ビジネスマネージャーのアカウントに二段階認証を必須化することができます。管理者権限を持つ複数の人物が二段階認証を有効化することで、不正アクセスのリスクが大幅に低減します。
さらに、Metaの「ログインアラート」機能を活用することで、新しいデバイスからのログイン試行時に通知を受け取ることができ、異常な権限使用を早期に検知できます。こうしたセキュリティレイヤーの追加により、所有権を技術的にも堅牢に保護することができます。
Yahoo広告のアカウント所有権と権限管理
Yahoo広告は日本の検索広告市場で重要な位置を占めており、Google広告とは異なる権限管理体制を採用しています。Yahoo広告の所有権は「アカウント管理者」として定義され、この権限は企業側で厳密に保有することが推奨されています。特に日本企業にとって重要な広告媒体であることから、権限管理の不備は大きなリスクになります。
Yahoo広告の管理者権限と運用体制
Yahoo広告のアカウント管理画面には、アカウント管理者以下に「ビジネスマネージャー」「キャンペーンマネージャー」「リポーター」といった複数の権限レベルが存在します。アカウント管理者は、これらのユーザーの追加・削除と権限変更が可能で、広告配信のオン・オフもできます。
特にYahoo広告の場合、個人事業主や中小企業が代理店と契約する際に、代理店が登録代表者となるケースが多いという特性があります。この場合、後から権限を企業側に移すプロセスが複雑になるため、初期段階での契約内容定義が極めて重要です。Yahoo広告は他のプラットフォームと比較して、代表者情報の変更に関する審査が厳格であり、書類準備に時間を要します。
Yahoo広告の権限移譲と登録情報の変更
Yahoo広告でアカウント所有権を移譲する場合、単なる権限付与では不十分です。登録されている代表者情報そのものの変更が必要になります。これには、Yahoo広告のカスタマーサポートへの申請と書類提出が必要となり、Google広告やMeta広告と比較して手続きが煩雑で時間がかかるという特徴があります。
具体的には、新しい代表者を指定する際に、本人確認書類や法人の登記簿など、複数の確認資料が求められることがあります。これらの書類準備と確認に1〜2週間を要することも珍しくなく、代理店乗り換え時には十分な時間余裕を見込む必要があります。特に、個人事業主から法人化した場合や、代表者が変更された場合には、更新手続きが複雑になりやすいため、早めに準備することが重要です。
Yahoo広告の複数代理店運用時の権限管理
複数の代理店にYahoo広告の運用を分割している企業の場合、権限管理はさらに複雑になります。各代理店に必要最小限の権限を付与しつつも、企業側が全体的な統制を取れる体制を構築することが重要です。
推奨される方法は、企業側で「アカウント管理者」権限を保有し、各代理店には「キャンペーンマネージャー」権限を付与するという構成です。この構成により、各代理店は独立して自社の担当キャンペーンを管理できる一方、企業は全キャンペーンの監視と予算管理の最終統制が可能になります。さらに、月額支出上限を設定できるため、予期しない費用超過を防ぐことができます。
各広告媒体の権限管理比較と最適な構成
Google広告、Meta広告、Yahoo広告は、それぞれ異なる権限管理の特性を持つため、複数媒体を運用する企業にとって統一的なポリシーの構築は課題となります。最適な権限管理体制は、各媒体の特性を理解した上で、企業の運用体制に合わせてカスタマイズすることが重要です。例えば、Google広告は最も柔軟な権限設定が可能なため、ここを起点に権限テンプレートを作成し、他の媒体にも適用させるという方法が効果的です。
代理店乗り換え時のアカウント移管手順
代理店を乗り換える際のアカウント移管は、計画的に実行する必要があります。以下のステップを踏むことで、データ損失やアクセス喪失のリスクを最小化できます。多くの企業が無計画な乗り換えによって、重大な損失を被っています。
移管前の準備段階:3ヶ月前からの計画策定
アカウント移管の計画は、実際の乗り換え日の3ヶ月前から開始することが理想的です。この期間に、現在のアカウント設定の確認、データバックアップ、そして新旧代理店間の引き継ぎ計画を詰めておくことが重要です。
まず、Google広告であれば「トランザクション履歴」「変更履歴」を確認し、過去のキャンペーン設定やセグメント情報を記録しておきます。Meta広告であれば、ピクセル設定やコンバージョンの定義を書き出しておくことが重要です。これらのデータが失われると、乗り換え後の分析基準が大きく変わってしまい、成果検証ができなくなります。特に、複数年の広告実績を有するアカウントの場合、過去のデータを失うことによる意思決定への影響は甚大です。
権限移譲のプロセス
前述の通り、Google広告では企業側の管理者を事前に付与しておき、Meta広告ではビジネス所有者権限の移譲プロセスを開始し、Yahoo広告では登録代表者情報の変更申請を行います。各プラットフォームで異なるプロセスが必要なため、スプレッドシートで進捗管理することが推奨されます。
重要なポイントとして、権限移譲のプロセス中は、新旧両者がアクセスできる期間を設けることが重要です。この重複期間により、新しい代理店が前任者から直接引き継ぎを受けたり、質問を投げかけたりできます。通常2〜4週間の重複期間を確保することが目安です。特に、複雑なキャンペーン構成や専門的な設定を有する場合には、十分な引き継ぎ期間が必須です。
データ移行と検証
各広告媒体のアカウント所有権が移行された後、重要なのはデータの検証です。キャンペーン設定、除外キーワード、オーディエンスセグメント、カスタムコンバージョンなど、運用に必要なすべての設定が新代理店のアカウント内に正しく反映されているか確認します。
特に、コンバージョントラッキングの引き継ぎは最も注意が必要です。Google広告のコンバージョンタグやMeta広告のピクセルが正しく発火しているか、複数日にわたってレポートを確認することが不可欠です。この検証を怠ると、移行後数ヶ月間、不正確なデータに基づいた運用が続くことになります。さらに、新しい代理店によるキャンペーン最適化の成否も、正確なトラッキングデータに依存しているため、この段階での検証は重要な品質管理プロセスとなります。
代理店乗り換え時は、新旧両代理店が協力できる期間を設けることが成功の鍵です。この期間を最小限にしたり、スキップしたりすると、後々大きなトラブルになる可能性があります。特に、複数の広告媒体を運用している場合には、媒体ごとに異なる移譲プロセスを並行管理する必要があるため、スケジュール管理は一層複雑になります。
インハウス移行時の権限設計
外部代理店から自社運用へ移行する際、権限設計は特に重要な課題です。組織内の複数の部門や個人に広告運用権限を分散させる際、セキュリティと効率のバランスを取る必要があります。インハウス運用は長期的な企業資産となるため、その基盤となる権限体制の構築は極めて慎重に行うべきです。
インハウス移行時の組織体制と権限配分
インハウス運用では、通常以下のような体制が構築されます。マーケティング部長が全体責任を持ち、広告運用チームが日々のキャンペーン管理を行い、分析・最適化を専任で担当する者が成果レポートを作成します。この体制が機能するためには、各職務に必要な権限を明確に定義することが重要です。
各々の権限は、その職務に必要な範囲に限定すべきです。広告運用チームは「編集」権限で十分、分析者は「閲覧のみ」権限、営業部門からのアクセスが必要な場合も「閲覧のみ」に限定します。多くの企業が無制限に管理者権限を付与してしまい、後々それが大きなセキュリティリスクになっています。例えば、営業部門の従業員が管理者権限を持っていると、意図しないキャンペーン削除や予算変更が発生するリスクが生じます。
退職者や異動者への権限削除プロセス
インハウス運用の長期運営で問題になるのが、退職者や他部門への異動者のアクセス権が削除されないままになるケースです。最初は「いずれ削除しよう」と思いながら、業務が忙しくなるにつれ後回しになり、数年前に退職した元スタッフがまだアクセス可能という事態が発生します。
これを防ぐため、毎年1回は全広告アカウントのアクセス権者リストを確認し、不要な権限を削除する監査を実施することが推奨されます。この監査はITやセキュリティチームが主導し、マーケティング部門の確認を経て実行することが理想的です。監査のプロセスを定着させることで、長期的なセキュリティ体制が構築されます。
緊急時の権限委譲と復旧計画
インハウス運用では、広告運用責任者が急病や退職、休職などで対応不可になるリスクも考慮する必要があります。こうした事態に備えて、副責任者や管理者権限を持つ複数の人物を事前に指定しておくことが重要です。
さらに、毎年1回程度、権限委譲シミュレーションを実施することが推奨されます。例えば、現在の広告運用責任者が急に対応不可になった場合、次の担当者が実際に権限を引き継いで、キャンペーン管理が継続できるか確認するというプロセスです。この訓練を通じて、ドキュメント不足やプロセスの穴が顕在化し、事前に改善できます。緊急時対応の計画を立案しておくことで、実際に問題が発生した際の混乱を最小化できます。
所有権トラブルを防ぐための契約・運用チェックリスト
広告アカウントの所有権トラブルは、初期段階の契約と運用ルール設定で大部分が防ぐことが可能です。以下のチェックリストを参考に、自社の広告運用体制を整備してください。
| チェック項目 | 確認内容 | 実施時期 |
|---|---|---|
| 登録メールアドレス | 企業独自のドメインメール(admin@company.jpなど)で登録しているか、代理店のメールアドレスになっていないか | 契約時・定期確認 |
| 登録代表者情報 | 登録されている代表者が、企業側の管理者またはマーケティング責任者であるか、代理店スタッフになっていないか | 契約時・定期確認 |
| 管理者権限の配置 | 企業側の担当者が少なくとも1名、管理者権限を保有しているか | 契約時・定期確認 |
| 複数管理者の配置 | 管理者権限を持つ者が複数名(最低2名)いるか、1人の退職でアクセス不可にならないか | 契約時・年1回確認 |
| 権限付与ドキュメント | 各広告媒体における権限配分を文書化し、営業チーム、分析チーム、経営層が確認しているか | 契約時・異動時 |
| 定期監査の実施 | 毎年1回、全広告媒体のアクセス権者リストを確認し、不要な権限を削除しているか | 年1回 |
| 契約書への記載 | 代理店契約書に「アカウント所有権は企業側にある」「終了時には権限を全て返却する」と明記されているか | 契約前 |
| 移管計画書 | 代理店乗り換え時に、権限移譲の具体的なスケジュールと責任者が記載された計画書を作成しているか | 乗り換え3ヶ月前 |
このチェックリストの項目を順に確認していくことで、大部分のリスクを事前に検出し、対策できます。特に「契約書への記載」と「定期監査の実施」の2項目は、多くの企業が怠りやすいものの、後々のトラブルを大きく減らす効果があります。各項目について現状を正確に把握し、不備があれば即座に改善することが重要です。
実践的な権限管理体制の構築手順
前節までに述べたチェックリストの各項目について、実際の改善手順を具体的に解説します。特に重要な項目の実装方法について、段階的に説明します。所有権とガバナンスの体制化により、長期的な競争優位性が生まれます。
契約書への明記が最初の防止策
代理店契約書には、必ず「広告アカウント所有権」に関する条項を記載することが重要です。例えば以下のような文言が有効です:「クライアント企業が所有する広告アカウントについて、代理店は運用委託を受けるものであり、所有権はクライアント企業に帰属する」「契約終了時には、代理店はアカウントに対するすべてのアクセス権を返却し、クライアント企業側への権限移譲に全面協力するものとする」。
これを契約書に明記することで、後々のトラブル時に法的な根拠が生じます。また、代理店側も契約内容が明確であることで、予期しない権限トラブルを防ぐことができ、双方にメリットがあります。契約書への明記は、単なる書面の作成ではなく、企業と代理店の間での理解の統一を意味するプロセスです。
定期監査による権限管理の継続的改善
毎年1回、全広告媒体(Google広告、Meta広告、Yahoo広告など)のアクセス権者一覧を確認し、以下の点をチェックします。まず、退職者や異動者のアクセスが残っていないか確認します。次に、権限レベルが職務に適切であるか確認します。例えば、営業事務が「管理者」権限を持っていないか、などです。
この監査を実施する際には、各部門からのヒアリングも重要です。マーケティング部門、営業部門、経営層それぞれから、「今後どのような権限配分が必要か」を聞き取ることで、組織の成長に合わせた権限管理を実施できます。年1回のサイクルで継続的に改善していくことで、権限管理体制は組織のニーズに適合した形へ進化していきます。
まとめ:広告アカウント所有権で押さえるべきポイント
広告アカウントの所有権と権限管理は、デジタルマーケティング運用の基盤です。トラブルが発生してからの対応では、大きな機会損失が発生します。本記事で解説したポイントを、今このタイミングで確認し、自社の運用体制を整備することが重要です。
特に以下の3点を優先的に実行することをお勧めします:
- 登録情報と管理者権限の確認:Google広告、Meta広告、Yahoo広告それぞれについて、今この瞬間に管理画面にアクセスし、登録メールアドレス、登録代表者、管理者権限が企業側にあることを確認してください。この確認作業は、多くの企業が後回しにしている一方で、極めて高い効果を有するアクションです。
- 複数管理者の配置:各広告媒体で、複数の企業側担当者を管理者権限で配置してください。1人が退職しても、アカウント管理が継続できる体制を整備することが、事業継続性の確保に直結します。最低でも2名、できれば3名の管理者を配置することが理想的です。
- 定期監査体制の構築:毎年1回、全広告媒体のアクセス権者リストを確認し、不要な権限を削除するプロセスを組織内で定着させてください。セキュリティとコンプライアンスの両面で効果があります。この監査を定期的に実施することで、組織内の権限管理のルール化が進み、ガバナンスの質が向上します。
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本記事で解説した所有権や権限管理の課題は、自社だけでは気づきにくいことが多いです。ハーマンドットでは、100社以上の広告アカウント移管支援実績に基づき、貴社の広告アカウント構成や権限設定を無料で診断するサービスを提供しています。
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