DSAのAI Max移行は 既存検索キャンペーンをどう棚卸しすべきか

Google広告の検索キャンペーンで長く使われてきた動的検索広告(DSA)、自動作成アセット(ACA)、キャンペーン単位のブロードマッチ設定は、いずれもAI Maxへ自動的にアップグレードされます。影響を受けるのは、これらの設定が有効なまま残っている既存の検索キャンペーンを運用しているすべての広告主です。最初に手をつけるべきは新機能の使い方を覚えることではなく、自社アカウントにその設定がどれだけ残っているかを洗い出す棚卸しです。
ここで厄介なのは、移行スケジュールが一本道ではないことです。Googleは当初、対象となる残存キャンペーンを2026年9月から順次自動アップグレードすると発表していましたが、その後の更新でDSAのサンセットと自動アップグレードだけが2027年2月開始へ後ろ倒しになりました。一方でACAとキャンペーン単位のブロードマッチ設定は、予定どおり2026年9月から自動アップグレードが進みます。同じ「AI Max移行」という言葉でくくると、対応の優先順位を完全に読み違えます。
本記事は広告運用代行の実務者として、AI Maxの機能解説ではなく「何がいつ自動で切り替わり、どの資産を先に監査すべきか」に絞って整理します。記載は2026年9月3日時点で公開されている情報にもとづき、公式に確認できない部分は確度を明示します。
この記事の要点
- 自動アップグレードの対象はDSA・ACA・キャンペーン単位のブロードマッチ設定の三つで、適用時期は同じではない
- ACAとキャンペーン単位のブロードマッチは2026年9月から、DSAのサンセットと自動アップグレードは2027年2月開始に延期された
- 棚卸しは「予算規模」と「動的ターゲットの指定方法」の二軸で優先度をつけると手戻りが減る
- 広告文の固定表示と最終URLの拡張は、移行後に統制が効きにくくなる代表的な資産なので先に監査する
- 移行前に検索語句とコンバージョン経路のベースラインを記録しないと、劣化と季節要因を切り分けられなくなる
自動アップグレードの対象は三つの設定に分かれている
AI Maxへ自動アップグレードされるのは、動的検索広告(DSA)、自動作成アセット(ACA)、キャンペーン単位のブロードマッチ設定という三つのレガシー設定です。Google公式ブログ「Dynamic Search Ads are upgrading to AI Max」(2026年4月15日公開/2026年6月11日更新)に、この三つが対象として明記されています。裏を返せば、これらの設定を一つも使っていない検索キャンペーンは、少なくとも今回の自動アップグレードの直接対象からは外れます。
AI Maxとは、検索キャンペーンに対して検索語句のマッチング拡張、広告文のテキストカスタマイズ、最終URLの拡張をまとめて有効化し、その上でブランドや地域のコントロールを重ねる設定のパッケージです。個別の広告フォーマットが増えるわけではなく、既存の検索キャンペーンの挙動そのものを置き換える点が、過去のフォーマット刷新と決定的に違います。だからこそ「新しい広告を作るかどうか」ではなく「既存資産がどう解釈され直すか」という観点で棚卸しする必要があります。
動的検索広告が担っていた役割と引き継がれ方
DSAは、ランディングページのテキストをGoogleがクロールし、検索語句とページ内容の一致度をもとに広告見出しと遷移先を自動生成する仕組みでした。キーワードを登録しなくても在庫数の多いサイトを網羅できるため、ECの商品ページや不動産の物件ページ、求人の職種ページなど、手作業でキーワードを積み上げられない領域で使われてきました。運用者にとっては「キーワードを作らないキャンペーン」であり、通常の検索キャンペーンとは別の管理ルールで回していたケースが多いはずです。
公式ブログでは、動的広告グループを含むキャンペーンは標準広告グループへ移行し、設定とデータはAI Maxへ引き継がれるとされています。つまりゼロから作り直す前提ではなく、既存の構造を土台にした置き換えです。ただし「引き継がれる」と書かれているのは設定とデータであって、配信結果が同じになると約束されているわけではありません。ここを取り違えると、移行後の数字の動きをすべて偶然の変動として片づけてしまいます。
実務上の注意点は、動的広告グループが標準広告グループへ変わることで、これまでの管理単位が崩れることです。動的ターゲットごとに広告グループを切って予算配分や入札の傾向を読んでいたアカウントほど、移行後にレポートの見え方が変わります。広告グループ構造に紐づけて社内レポートやダッシュボードを作っている場合は、移行前にその集計軸が生き残るかを確認しておくべきです。
自動作成アセットとブロードマッチ設定が先に動く理由
ACAとキャンペーン単位のブロードマッチ設定は、DSAより先に自動アップグレードが進みます。公式ブログの更新部分では、DSAのサンセットと自動アップグレードのタイムラインを延長する一方で、ACAとキャンペーン単位のブロードマッチ設定を使っているキャンペーンは2026年9月から自動アップグレードを継続すると明記されています。DSAだけを見て「まだ先の話だ」と判断すると、9月の対象を取りこぼします。
この二つは、DSAと違って「意識せずに有効になっている」ことが多い設定です。ACAはレスポンシブ検索広告の設定画面から有効化でき、キャンペーン単位のブロードマッチも過去の設定変更時にまとめてオンにしたまま忘れられている例をよく見ます。DSAは専用の広告グループが存在するので気づけますが、ACAとブロードマッチ設定はキャンペーン設定の一行でしかないため、棚卸しリストから漏れやすいのが実情です。
| 対象のレガシー設定 | 自動アップグレードの開始時期 | 棚卸しで最初に見る場所 |
|---|---|---|
| 自動作成アセット(ACA) | 2026年9月から順次 | キャンペーン設定のアセット関連項目 |
| キャンペーン単位のブロードマッチ設定 | 2026年9月から順次 | キャンペーン設定のキーワードマッチ関連項目 |
| 動的検索広告(DSA) | 2027年2月開始に延期 | 動的広告グループと動的広告ターゲット |
AI Maxで有効になる検索語句マッチングやテキストカスタマイズといった各機能の役割と、どのコントロールで制御できるかについては、以下の記事をご覧ください。
移行スケジュールは日付より分岐で読む
移行スケジュールは「いつ」よりも「どの設定に該当するか」で読むべきです。2026年9月3日時点で公式に確認できるのは、ACAとキャンペーン単位のブロードマッチ設定が2026年9月から自動アップグレードされること、そしてDSAのサンセットと自動アップグレードが2027年2月開始へ延期されたことの二点です。この二本立てを一枚のカレンダーに落とし込めば、社内での期限管理は十分に回ります。
逆に、日付を細かく詰めようとすると情報の確度が落ちます。国内の解説記事では新規DSAキャンペーンの作成停止時期を2027年1月とするものが複数見られますが、公式ブログ本文にその月が明記されているわけではありません。公式に読み取れるのは、DSAのサンセットと自動アップグレードが2027年2月に始まるという範囲までで、それ以外の日付は現時点では未公表として扱うのが安全です。
一次情報の更新履歴を必ず自分で確認する
この件で最も事故が起きやすいのは、2026年4月時点の記事を読んで対応計画を組んでしまうケースです。当初の発表では、2026年9月から残存する対象検索キャンペーンが順次自動アップグレードされ、同時にGoogle広告の管理画面、Google Ads Editor、Google Ads APIのいずれからも新規のDSAキャンペーンが作成できなくなるとされていました。その内容だけを読むと、DSAも9月に一斉に置き換わるように見えます。
しかし同じURLの記事が2026年6月11日に更新され、DSAについてはタイムラインを延長する旨が追記されました。同じページが書き換わっているため、4月時点のスクリーンショットや引用をそのまま社内資料に残していると、更新に気づかないまま古い前提で動くことになります。一次情報を参照する際は、公開日だけでなく更新日まで見て、更新の有無を毎回確認してください。
広告運用代行として複数アカウントを預かる立場では、この確認を担当者任せにせず、月次で一次情報の更新を点検する係を決めておくのが現実的です。プラットフォームの発表は同一URLの追記で修正されることが多く、新着通知だけを追っていると更新を拾えません。運用チームの定例に「公式発表の差分確認」を組み込むだけで、古い前提のまま作業が進むリスクは大きく下がります。
自社アカウントの適用時期は管理画面で裏を取る
全体スケジュールが分かっても、自社アカウントに実際に適用される時期は別問題です。この種の段階的ロールアウトでは、同じ月内でもアカウントによって適用のタイミングがずれるのが通例で、アカウント単位の正確な日付は現時点では未公表です。したがって「9月のいつ切り替わるか」を外部情報から特定しようとするのは、時間の使い方として効率が悪いと言えます。
実務では、管理画面の通知欄と各キャンペーンの設定画面に表示されるアップグレード関連の案内を、対象アカウントごとに定期的に見に行くのが確実です。公式ブログでは、過去の設定とデータを新しい標準広告グループへ移すためのアップグレードツールを提供するとされており、この導線が出ているかどうかが、そのアカウントが対象になっているかの実質的な判断材料になります。
スケジュール確認で押さえる三点
- 対象設定ごとに時期が違うため、キャンペーン一覧を設定別に分けて数える
- 公式ブログは同一URLで更新されるため、公開日ではなく更新日を見る
- アカウント単位の適用日は未公表なので、管理画面の案内表示で裏を取る
棚卸しはどのキャンペーンから手をつけるべきか
棚卸しの着手順は、予算規模とコンバージョンへの寄与が大きいキャンペーンからで正解です。全キャンペーンを一律に精査しようとすると、対象が数十本ある中規模アカウントでも数日単位の作業になり、肝心の高予算キャンペーンの検証時間が削られます。まず金額の大きい順に並べ、上位が全体の何割を占めているかを見て、そこから手をつけるのが最短です。
ここで見落とされがちなのが、予算が小さくても指名検索や既存顧客の再訪を拾っているキャンペーンです。金額では下位でも、コンバージョン単価が突出して良いキャンペーンは、マッチングが広がったときの相対的な悪化幅が大きくなります。金額の絶対値と、コンバージョン単価の良さの両方でランキングを作り、どちらかの上位に入るキャンペーンを優先対象にしてください。
動的ターゲットの指定方法で分類する
DSAを使っているキャンペーンは、動的広告ターゲットの指定方法によって移行後のリスクが大きく変わります。ページフィードで対象URLを明示的に限定している場合と、「ウェブサイトのすべてのページ」やカテゴリ指定に任せている場合とでは、Googleが解釈できる範囲がまったく違います。前者は移行後も対象の輪郭が保たれやすく、後者は最終URLの拡張と組み合わさって配信先が広がりやすい構成です。
したがって棚卸しでは、DSAキャンペーンを「ページフィードで限定しているもの」「カテゴリ指定のもの」「サイト全体を対象にしているもの」の三つに仕分けます。この仕分けができていれば、移行時にどのキャンペーンへ手厚くコントロールを設定すべきかが機械的に決まります。サイト全体を対象にしているDSAキャンペーンは、優先度の高低にかかわらず必ず個別レビューの対象にしてください。
| 棚卸しの区分 | 該当しやすいキャンペーン | 移行時の対応方針 |
|---|---|---|
| 最優先 | 予算上位かつサイト全体を対象にしたDSA | 移行前に対象URLの限定とコントロール設計を先行 |
| 優先 | コンバージョン単価が良好な指名・既存顧客向け | ブランド関連のコントロールとベースライン記録を先行 |
| 標準 | ページフィードで限定済みのDSA | 自主移行で先に検証し、知見を他へ横展開 |
| 後回し | 停止中・少額の検証用キャンペーン | 移行対象から外せるものは設定を解除して整理 |
停止中と少額のキャンペーンは整理してしまう
棚卸しで意外に効くのが、対象そのものを減らす作業です。長期間停止したまま残っているキャンペーンや、検証目的で作って放置された少額キャンペーンにレガシー設定が残っていると、移行対象の本数だけが膨らみます。設定を解除するか、キャンペーンごと削除してしまえば、確認すべき対象が減り、移行時の想定外の配信も防げます。
ただし削除は履歴の参照性を落とすため、過去データを社外レポートで参照する可能性があるものは停止のまま残す判断もあります。判断基準はシンプルで、直近一年で一度もレポートに登場していないなら削除、参照実績があるなら設定解除にとどめる、という線引きで十分です。この整理を先にやっておくと、後工程の検索語句レビューの負荷が目に見えて軽くなります。
検索語句の確認頻度や除外の判断ルールを運用ルールとして固める方法については、以下の記事をご覧ください。
広告文アセットの資産価値を再評価する
移行前に最も丁寧に監査すべき資産は、これまで積み上げてきた広告文です。AI Maxにはテキストカスタマイズが含まれており、検索語句やランディングページの内容に応じて見出しや説明文が動的に生成されます。登録した文言がそのまま表示されるとは限らない前提に変わるため、「表示される文言を管理する」という考え方そのものを設計し直す必要があります。
ここで問題になるのは、広告文が単なる訴求ではなく、事業上の制約を背負っているケースです。価格表記、キャンペーン期間、資格や許認可に関する記載、業界特有の表現規制など、変えられては困る文言は業種を問わず存在します。これらを含む広告文を抱えるアカウントでは、移行の前に固定表示の可否と代替手段を確認する工程を必ず挟んでください。
固定表示と法務要件のあるコピーを洗い出す
実務では、まず既存のレスポンシブ検索広告で固定表示を使っている箇所をすべて書き出します。固定表示は本来、機械学習の最適化余地を狭めるため多用は避けるべき機能ですが、それでも固定している以上は何らかの事業理由があるはずです。その理由が「表現の統一」なのか「法務・薬機まわりの必須表記」なのかで、移行後に許容できる自由度がまったく変わります。
必須表記に該当するものは、広告文だけで担保しようとせず、ランディングページ側での明示と併用する設計に寄せておくと安全側に倒せます。動的に生成される文言が増えるほど、広告文単体で要件を満たす設計は脆くなります。法務確認が必要な文言は、移行の可否判断ではなく移行前提の代替設計として、あらかじめ関係部署と握っておくべきです。
広告主が事業会社の場合、この確認は広告運用チームだけで完結しません。法務や品質管理の担当者に「AIが広告文の一部を生成する仕様に変わる」という事実を先に共有しておかないと、移行後に表示された文言を発見して差し戻しになります。運用代行として入る場合も、この説明責任は代理店側が負うべき領域です。
ランディングページのテキストが広告文の材料になる
テキストカスタマイズが有効になると、ランディングページの記述内容が広告文の生成材料として重みを増します。これは裏を返せば、ページ内に古いキャンペーン情報や終了した価格表記が残っていると、それが広告文へ反映されるリスクがあるということです。DSAの時代からページのテキスト品質は配信品質に直結していましたが、移行後はその影響範囲が見出しや説明文にまで広がります。
そのため棚卸しの一環として、対象キャンペーンが送客しているランディングページの記述監査も同時に走らせます。特に、期間限定の訴求を含むページ、旧サービス名が残っているページ、料金改定前の表記が残っているページは要注意です。ページ側の掃除は移行の有無にかかわらず有効な施策なので、移行を待たずに着手して構いません。
広告文の固定表示をどこまで使うべきか、その設計指針については以下の記事をご覧ください。
検索語句と遷移先の統制を移行前に敷く
統制の設計は移行後ではなく移行前に終わらせるべきです。AI Maxではマッチングの範囲が広がるため、除外キーワードやブランド関連のコントロールが未整備のまま切り替わると、想定外の検索語句に予算が流れた状態で数日が経過します。数日分の無駄な消化は、その後の学習データにも影響を残すため、後追いの除外では取り返しがつきません。
公式ブログでは、AI Maxの構成要素として検索語句のマッチング、テキストカスタマイズ、最終URLの拡張が挙げられ、これに加えてブランドと地域のコントロールが提供されるとされています。コントロールが用意されているという事実は、初期設定のまま使うと制御が効かない領域が存在することの裏返しです。
除外キーワードとブランド関連の指定を先に整える
まず着手すべきは、アカウント単位の除外キーワードリストの整備です。既存のDSAキャンペーンで長年除外してきた語句は、そのキャンペーンにしか適用されていないことが少なくありません。移行によって構造が変わる前に、共有除外リストへ集約しておけば、移行後の新しい構成でも除外が継承されます。この作業は移行の可否とは無関係に価値があるため、判断を待たずに進められます。
ブランド関連については、自社ブランドを含む検索語句をどう扱うかの方針を先に決めます。指名検索を別キャンペーンで管理しているアカウントでは、マッチング拡張によって一般語のキャンペーンが指名検索を拾い始めると、キャンペーン間で予算とデータが混ざります。指名と一般を分けて管理しているアカウントほど、ブランドのコントロール設定を移行前に固めておく必要があります。
最終URLの拡張で流れ込む先を点検する
最終URLの拡張は、設定した最終URL以外のページへも遷移先が広がる仕組みです。サイトの規模が大きいほど、意図しないページが遷移先候補に入るリスクが上がります。特に、採用情報、IR、サポートのヘルプページ、会員向けのログイン後ページの入口などは、広告の遷移先として適切でないケースがほとんどです。
点検の手順は、除外対象にすべきURLの一覧を作り、拡張の対象から外す設定を入れるだけです。手間はかかりませんが、この作業を飛ばすと、コンバージョンにつながらないページへのクリックが積み上がります。サイトの階層が深いアカウントでは、除外URLの一覧作成だけで半日程度の工数を見込んでおくと計画が崩れません。
移行前に終わらせないと取り返しがつかない作業
- 共有除外キーワードリストへの集約(キャンペーン単位の除外は構造変更で失われうる)
- ブランド関連コントロールの方針決定(指名と一般の予算混在を防ぐ)
- 最終URLの拡張から外すページの一覧化(採用・IR・サポート等)
移行前に記録すべきベースラインと比較設計
移行の成否を判断できるかどうかは、移行前にどれだけ記録を残したかで決まります。切り替わった後に「なんとなく悪化した気がする」という議論に陥るアカウントは、例外なくベースラインの記録が不足しています。記録すべきは全体の数字ではなく、移行によって比較不能になる粒度の数字です。
具体的には、キャンペーン別・広告グループ別のコンバージョン数とコンバージョン単価、検索語句レポートの上位語句とその構成比、遷移先URL別のクリック数とコンバージョン数を、移行前の一定期間分そのまま保存します。管理画面上で後から遡れるからと油断せず、構造が変わる前にCSVとして手元に落としておくことが実務上の保険になります。
移行後に比較できなくなる指標を先に把握する
動的広告グループが標準広告グループへ変わることで、広告グループ単位の時系列比較は連続性を失います。同じ名称の広告グループが残っていても、内部の対象範囲が変われば、前後比較の意味は薄くなります。したがって比較の主軸は広告グループではなく、キャンペーン単位あるいはコンバージョン地点単位に移しておくのが妥当です。
検索語句レポートも同様で、マッチングの仕組みが変わるため、語句単位の増減をそのまま比較すると誤読します。見るべきは個別語句ではなく、語句のカテゴリ構成比の変化です。指名系、一般系、比較検討系、無関係系といった大分類で比率を出しておけば、移行後の変化を定量的に語れます。この分類作業は移行前に一度やっておくと、移行後の議論が感覚論になるのを防げます。
実験機能で並行検証してから広げる
自主移行の余地が残っている段階では、いきなり本番キャンペーン全体を切り替えるのではなく、実験機能で一部トラフィックを割り当てて比較するのが定石です。同一期間・同一予算配分で比較できるため、季節要因と施策要因を切り分けられます。特にDSAは2027年2月まで猶予があるため、この期間を検証に充てられるのは大きな利点です。
ただし、実験で有意差を出すには一定の期間とコンバージョン数が必要です。月間のコンバージョン数が二桁前半にとどまるアカウントでは、実験を組んでも判断材料にならないまま期間だけが過ぎます。その場合は実験にこだわらず、対象を絞った先行移行と丁寧な検索語句レビューの組み合わせに切り替えるほうが現実的です。
実験機能の設計手順や、有意差を判断するための期間設定については、以下の記事をご覧ください。
この条件に当てはまるならまだ移行を急がない
すべてのアカウントが今すぐ自主移行すべきかというと、そうではありません。Googleは早期の移行を推奨していますが、それは移行後のコントロールを自分の手で設計できるという理由からであり、準備が整っていない状態で急ぐ根拠にはなりません。準備が不十分なまま前倒しで移行するくらいなら、猶予期間を使って統制設計を先に終わらせるほうが結果的に安全です。
見送りが合理的なのは、統制の材料がまだ揃っていないアカウントです。除外キーワードの集約が終わっていない、法務確認が必要な広告文の棚卸しが済んでいない、コンバージョン計測に既知の不具合が残っている、といった状態で移行しても、移行後の数字の変化を正しく解釈できません。この状態での移行は、検証ではなく単なる賭けになります。
見送りが正当化される具体的な条件
実務で見送りを推奨するのは、まず繁忙期の直前にあたるアカウントです。年末商戦や決算期など、月間予算が普段の数倍に膨らむ期間の直前に大きな設定変更を入れるのは、リスクとリターンが釣り合いません。この場合は繁忙期を通常設定で乗り切り、落ち着いた時期に移行と検証をまとめて行う計画に組み替えます。
次に、コンバージョン計測の信頼性に懸念があるアカウントです。計測が正しくない状態では、AI Maxの学習も正しく回りませんし、移行の評価もできません。計測の修正が先で、移行はその後です。計測に不具合を抱えたまま移行するのは、壊れた物差しで新しい部屋を測ろうとするのと同じで、作業自体が無意味になります。
見送っても期限は必ず来るという前提を共有する
見送りの判断で危険なのは、それが先送りに変質することです。自動アップグレードが設定されている以上、対応しなければ結局は自動で切り替わり、しかもそのときには初期設定のまま配信が始まります。見送りとは「移行しない」ではなく「自分のタイミングで移行するために準備期間を取る」という意味でしかありません。
そのため、見送りを決めた時点で移行予定時期と、それまでに終わらせる準備項目を必ず文書化します。広告主側の意思決定者にも、自動アップグレードの存在と、準備が間に合わなかった場合に何が起きるかを事前に共有しておきます。この共有がないと、自動で切り替わった後に「聞いていない」という話になり、運用体制そのものの信頼を損ないます。
実装と権限まわりで見落としやすい点
移行で最も見落とされやすいのは、管理画面の外にある実装です。Google Ads Editor、Google Ads API、社内の入稿ツールや自動化スクリプトは、DSAという構造を前提に組まれていることがあります。当初の発表では、Google広告の管理画面、Google Ads Editor、Google Ads APIのいずれからも新規DSAキャンペーンの作成ができなくなるとされていました。
APIを使ってキャンペーンを自動生成している事業者では、この変更がそのまま既存フローの停止につながります。DSAのタイムライン自体は2027年2月開始へ延期されましたが、開発の着手判断は延期の有無にかかわらず早めに下すべきです。API連携やスクリプトを持つアカウントでは、広告運用側ではなく開発側の工数確保が移行のボトルネックになります。
入稿ツールと自動化スクリプトの依存を洗う
洗い出しの手順は、DSAという語や動的広告ターゲットに相当する項目を扱っているコードや設定を検索するところから始めます。商品データベースからページフィードを自動生成している仕組み、動的広告ターゲットを定期更新しているバッチ処理、レポートを広告グループ種別で分岐させている集計ロジックなどが典型的な依存箇所です。
これらは広告運用チームからは見えない場所にあることが多く、移行直前に発覚すると対応が間に合いません。棚卸しの初期段階で開発担当に照会をかけ、影響範囲を書き出してもらうのが確実です。依存箇所の洗い出しは、移行判断より前に着手すべき最優先の作業と位置づけてください。
代理店とインハウスの役割分担を先に決める
運用代行を利用している場合、移行に伴う設定変更の責任範囲を事前に明確にしておく必要があります。管理画面の設定は代理店、ランディングページの記述修正は広告主、API連携の改修は開発ベンダー、というように担当が分かれるためです。どこか一つでも抜けると、移行後に想定外の配信が起きたときの切り分けができません。
また、自動アップグレードは代理店の作業有無にかかわらず進行します。契約上の作業範囲に「プラットフォーム仕様変更への対応」が含まれているかを確認し、含まれていなければ今回の対応をどう扱うかを事前に協議しておくべきです。仕様変更対応の巧拙は代理店の実力差が最も出る領域なので、対応方針の提示があるかどうかは評価材料としても使えます。
広告運用代行を選ぶ際に、仕様変更への対応力をどう見極めるかについては、以下の記事をご覧ください。
まとめは棚卸しの順番が移行の成否を決める
今回の変更で問われているのは、AI Maxの機能を使いこなせるかではなく、自社アカウントに何が残っているかを把握できているかです。対象設定を数え、優先度をつけ、統制を先に敷き、ベースラインを記録する。この順番さえ守れば、自動アップグレードが来ても慌てる場面はほとんどありません。逆に順番を間違えると、猶予期間があっても準備は終わりません。本記事の内容は2026年9月3日時点の公開情報にもとづくため、実際の対応前に一次情報の更新有無を必ず確認してください。
- 対象はDSA・ACA・キャンペーン単位のブロードマッチ設定の三つで、時期が分かれる
- ACAとブロードマッチ設定は2026年9月から、DSAは2027年2月開始に延期された
- 棚卸しは予算規模と動的ターゲットの指定方法の二軸で優先度をつける
- 除外・ブランド・最終URL拡張の統制は移行前に終わらせる
- API連携や入稿ツールの依存確認は、移行判断より前に着手する
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