Uber Journey Adsは移動中の数分を比較検討に変えられるか

広告の接触機会を探すとき、多くの担当者はスマートフォンの画面か動画の視聴時間を思い浮かべます。ただ、日常のなかには他にもまとまった時間があります。移動している時間です。目的地に向かう十数分のあいだ、人は次にやることを考えながら手元の画面を見ています。この時間を広告面として設計しているのがUber Journey Adsです。
Uberの広告事業は、配車のRidesとフードデリバリーのEatsの両方にまたがっています。日本語で目にする情報の多くは飲食店向けのEats側の話であり、Rides側の面を使った設計はほとんど語られていません。しかし、非飲食のブランドにとって価値があるのはむしろRides側です。
この記事では、Uber Advertisingが公開している情報をもとに、Journey Adsの構造と使いどころを整理します。飲食店の注文獲得ではなく、移動という文脈のなかで比較検討をどう作るかという観点でまとめました。記載内容は2026年8月時点の公開情報にもとづきます。
この記事の要点
- Journey Adsは、Uberアプリと車内の画面で展開される広告面で、ディスプレイ・動画・インタラクティブの三形式が用意されている
- Uberは月間2億800万人のプラットフォーム利用者、1日4200万件の乗車と注文、35以上の広告展開市場という規模を公表している
- 車内面ではQRコードやタップによるメール送信、ゲーム形式の体験など、次の行動につなげる仕掛けが使える
- Eats側の注文獲得とは目的も評価指標も異なるため、同じ枠組みで管理すると判断を誤る
- 移動文脈の広告は指名検索やサイト来訪といった中間指標で評価する設計にしないと、効果を正しく測れない
Uber Journey Adsとは何か
Uber Journey Adsとは、Uberアプリの利用中および車内の画面に掲載される広告面の総称です。公式では、ディスプレイ、動画、インタラクティブという三つの形式が案内されています。ディスプレイは印象に残る画像とメッセージで注意を引く形式、動画は画面上で連続的に物語を伝える形式、インタラクティブは動的なブランド体験でエンゲージメントを最大化する形式と説明されています。
この面が他のデジタル広告と決定的に違うのは、視聴者が移動という目的を持ちながら、その目的自体は手元の操作を必要としない状態にある点です。動画配信サービスの広告のようにコンテンツを遮るわけではなく、検索広告のように能動的な行動の途中に割り込むわけでもありません。手が空いている時間に自然に置かれるという性質が、この面の価値を決めています。
Uberが公表している規模は、月間2億800万人のプラットフォーム利用者、1日あたり4200万件の乗車と注文、そして広告を展開している市場が35以上というものです。到達できる母数としては、主要なSNS媒体と比較して極端に小さいわけではありません。ただし国や地域によって展開状況は異なるため、実際に使えるかどうかは市場ごとの確認が必要になります。
広告主から見た位置づけとしては、認知と比較検討を作る面として捉えるのが妥当です。公式もブランド向けのソリューションを認知と比較検討の段階に、コマース向けの形式を発見と転換の段階に整理しています。刈り取りの手段として導入すると、期待した数値は出ません。
三つの形式をどう使い分けるか
ディスプレイは、伝えたいことが一つに絞れている場合に向きます。新商品の発売、キャンペーンの告知、店舗の開業といった、短い時間で伝わる情報です。逆に、機能の説明や比較が必要な内容を静止画に詰め込むと、何も伝わらないまま終わります。
形式の選択は、制作の体制からも影響を受けます。動画やインタラクティブは制作の負荷が高く、更新の頻度を上げにくい形式です。継続的に配信するのであれば、更新しやすいディスプレイを主軸に置き、要所で動画を投入する構成が運用しやすくなります。
動画は、連続した流れで理解を作りたい場合に選びます。移動中は再生を止める理由が乏しいため、比較的長い尺でも最後まで見られる可能性があります。ただし音声が聞ける環境とは限らないため、音なしで成立する構成にしておくことが前提になります。
インタラクティブは、その場で次の行動を取ってもらいたい場合に有効です。移動中は購入や来店をその場で完了できないため、情報を持ち帰る仕組みを用意できるかどうかが成果を分けます。
車内面ではQRコードとメール送信が使える
車内の画面向けの広告では、QRコードの表示、タップによるメール送信、ゲーム形式の体験といった機能が使えると案内されています。実際にコカ・コーラの事例では、プレイアブルな広告が使われたことが紹介されています。
導線の設計では、送った先で何を見せるかまで決めておく必要があります。企業サイトのトップページに飛ばすだけでは、あとから見返したときに何の情報だったか分からなくなります。広告の内容と一対一で対応する着地先を用意し、移動中に見た内容がそのまま続く形にしてください。
実務で有効なのはタップによるメール送信です。QRコードは自分のスマートフォンで読み取る必要がありますが、車内の画面を操作してメールを送る形なら、その場の一手間で情報が手元に残ります。移動が終わったあとに見返せる形を作ることが、この面での設計の核心になります。
Eats側の広告とは目的も指標も違う
Uberの広告というと、飲食店の注文を増やすEats側の広告が想起されがちです。検索連動の掲載、メニュー内の露出、決済後の面といった構成で、狙うのは注文数の増加です。評価指標も注文件数と広告費用対効果で完結します。
Journey Adsは目的が異なります。移動中の接触から直接的な購入が発生する設計にはなっておらず、その場で完結する行動は情報の受け取りまでです。同じUberの広告でも評価の物差しを分ける必要があるのは、この構造の違いによります。
両者を同じレポートに並べると、Journey Adsの数値は必ず見劣りします。注文が発生する面と、認知を作る面を件数で比較すれば当然の結果です。導入時には、社内の関係者に対してこの違いを先に説明しておかないと、開始から数週間で停止の判断が出ます。
| 観点 | Eats側の広告 | Journey Ads |
|---|---|---|
| 主な目的 | 注文の獲得 | 認知と比較検討の形成 |
| 広告主の業種 | 飲食店・小売 | 業種を問わない |
| その場の行動 | 注文が完結する | 情報の受け取りまで |
| 主要な評価指標 | 注文件数・広告費用対効果 | 指名検索・サイト来訪・想起 |
| クリエイティブ | 商品画像と価格訴求 | ブランド表現と次の行動の導線 |
| 評価に必要な期間 | 数日から数週間 | 数週間から数か月 |
飲食店以外の業種でこそ使える
Eats側の広告は出稿できる業種が実質的に限られますが、Journey Adsにその制約はありません。金融、通信、自動車、不動産、人材といった検討期間の長い商材でも、移動中の時間に接触できます。むしろ、検討に時間がかかる商材のほうがこの面の性質と合います。
検討期間の長い商材では、接触から成約までの間に複数の情報源をたどるのが一般的です。移動中の接触は、その入り口として機能します。入り口として機能したかどうかは、その後の検索や比較サイトの閲覧といった行動に現れるため、追跡の設計が伴えば効果は確認できます。
その場で買えないことが弱点ではなく、その場で買えない商材にとっては前提が同じだからです。比較検討の材料を渡し、あとで思い出してもらう設計は、高額商材の広告設計として一般的なものです。
飲食店向けの注文獲得については目的が全く異なるため、以下の記事で別途扱っています。
移動文脈の広告は他にも存在する
移動中の時間を広告面として使う考え方は、Uberに限ったものではありません。配車サービスの分野では他社も同様の面を持っており、屋外広告や車載サイネージまで含めると選択肢はさらに広がります。どれを選ぶかは、対象とする地域と利用者層の重なり方で決まります。
移動文脈の広告全般の考え方については、以下の記事で接点の作り方を整理しています。
クリエイティブは音なしと短い注意で設計する
移動中の視聴環境には、他の面にはない制約があります。音声が使えるとは限らないこと、画面との距離が一定でないこと、そして視線が断続的に外れることの三つです。この制約を前提にしないクリエイティブは、制作費をかけても伝わりません。
音なしで成立させるには、字幕ではなく画面構成そのもので伝える必要があります。字幕は読ませる前提の要素であり、視線が断続的に外れる環境では読み切られない可能性が高いためです。一目で何の広告か分かる状態を最初の数秒で作ることが優先されます。
文字を使う場合は、大きさと分量を絞ります。車内の画面は手元のスマートフォンより離れた位置にあり、文字が小さいと読めません。伝えたい要素を一つに絞り、残りは視覚的な要素で補う構成が現実的です。
移動中の面で押さえたい制作条件
- 音声:音なしで内容が成立する構成にする
- 文字量:一画面あたりの情報を一つに絞る
- 文字サイズ:離れた位置から読める大きさを確保する
- 冒頭:最初の数秒で何の広告か判別できるようにする
- 次の行動:QRコードやメール送信など持ち帰る導線を必ず用意する
ブランド名の露出を最後に置かない
テレビコマーシャルの構成をそのまま持ち込むと、ブランド名が最後に出る形になりがちです。視線が断続的に外れる環境では、最後まで見られる保証がありません。ブランド名は冒頭から画面内に置き続けるほうが確実です。
あわせて、画面の縦横比の違いにも注意が必要です。アプリ内の面と車内の画面では、表示される形が異なる場合があります。片方に最適化した素材をそのまま使うと、重要な要素が切れることがあります。制作時に両方の見え方を確認しておいてください。
この点は、他のデジタル動画広告でも共通する原則です。ただし移動中の面では、視聴の中断が視聴者の意思ではなく環境によって起きるため、より徹底する必要があります。
インタラクティブは操作の負荷を最小にする
その場で操作してもらう設計にする場合、必要な操作は一回に抑えてください。移動中は姿勢も安定せず、複数回のタップや入力を求めると離脱します。メールアドレスの入力が必要な設計より、ワンタップで送信できる形のほうが実用的です。
ゲーム形式の体験は、滞在時間を伸ばす効果がある一方で、ブランドの記憶に残らないまま終わるリスクもあります。遊んだことは覚えているが何の広告か覚えていないという状態を避けるため、体験の中心にブランドの要素を組み込む必要があります。
評価指標をどう設計するか
この面の最大の実務課題は評価です。その場で購入が発生しない以上、直接的なコンバージョンで測ると必ず低い数値が出ます。評価するなら中間指標を使う設計にしなければなりません。
実務で使える中間指標は三つあります。ブランド名や商品名での指名検索の増加、サイトへの直接来訪の増加、そしてアンケートによる想起率の変化です。配信期間と非配信期間で比較できる形にしておくことが、どの指標でも前提になります。
指名検索は最も手軽に確認できる指標です。検索広告の管理画面や検索パフォーマンスのデータから、ブランド名を含むクエリの推移を見るだけで済みます。配信開始のタイミングと重ねて、明確な変化があるかを確認してください。
地域を分けて比較する方法
配信する地域と配信しない地域を分けると、比較の精度が上がります。同規模の都市を二つ選び、一方だけに配信して指名検索の推移を比べる方法です。全国一斉に配信するより情報量が多く、次の判断に使えます。
比較を成立させるうえで重要なのが、比較期間中に他の施策を動かさないことです。片方の地域だけでキャンペーンや値引きを実施すると、差の原因が分からなくなります。比較期間中は他の変数を固定するという取り決めを、関係部門と事前に共有しておいてください。
地域を分ける際は、既存の広告出稿量が近い地域を選んでください。もともと出稿量に差がある地域同士を比べても、差の原因が特定できません。
計測の設計はCTVと近い考え方になる
その場でクリックが発生しない面の評価という点では、コネクテッドテレビの広告と課題が共通します。デバイスをまたいだ行動をどう紐づけるか、視聴が実際の来訪につながったかをどう確認するかという論点です。
デバイスをまたぐ評価の設計については、以下の記事で具体的な方法を整理しています。
どんな広告主に向いているか
向いているのは、検討期間が長く、単価が高く、認知が獲得の前提になる商材です。金融商品、通信サービス、住宅、自動車、人材サービスといった領域が該当します。これらは検索広告だけでは需要そのものが増えにくく、上流の接触が効いてきます。
逆に向かないのは、単価が低く、即時の購入で完結する商材です。移動中に接触しても、その場で買えない以上は記憶に残るかどうかに依存します。単価が低い商材では、記憶に残るまでの接触回数を確保するコストが見合いません。
もう一つの判断軸が、対象地域と利用者層の重なりです。Uberの利用者は都市部に偏るため、地方を主戦場とする事業者では到達が限られます。都市部の比較的可処分所得の高い層に届けたい商材であれば、母数の面でも相性が良くなります。
導入を見送ったほうがよい条件
- 短期の獲得件数だけで広告予算の可否を判断する体制になっている
- 中間指標を観測する仕組みが社内にない
- 主戦場がUberの展開していない地域に限られている
- 音なしで成立するクリエイティブを用意する余力がない
- 配信期間が数週間しか確保できない
既存の上流施策と役割が重なる場合は整理する
テレビ、デジタル動画、屋外広告といった上流の施策をすでに実施している場合、Journey Adsを足すと役割が重なる可能性があります。重ねること自体は接触頻度の観点で有効ですが、予算の配分先としての優先順位は検討が必要です。
整理の方法としては、施策ごとに届く層を年代と生活パターンで書き出し、重なりを可視化するのが分かりやすいものです。感覚的な議論になりがちな領域なので、簡単な表にするだけでも合意が取りやすくなります。
判断の材料になるのは、既存の施策で届いていない層がいるかどうかです。移動中の時間は、テレビの視聴習慣がない層にも届く可能性があります。世代や生活パターンの違いを踏まえて、補完関係になっているかを確認してください。
屋外広告との組み合わせが効く場面
移動中の接触は、屋外の看板やサイネージとも文脈が近い領域です。同じ移動のなかでアプリ内と街中の両方に接触すれば、記憶に残る確率は上がります。地域を絞ったキャンペーンでは、この組み合わせが有効に働きます。
屋外の面を時間帯や天候で動かす設計については、以下の記事で扱っています。
出稿の進め方と社内合意の作り方
この種の面で最も多い失敗は、社内の期待値がそろっていない状態で始めてしまうことです。獲得件数で評価する文化のある組織では、開始から一か月で成果が見えないと継続の判断が難しくなります。評価指標の合意を先に取ることが、実質的な最初の作業になります。
合意を取る際は、何をもって成功とするかを数値で示してください。指名検索が何割増えれば成功なのか、サイト来訪が何件増えれば継続するのかを事前に決めます。基準がないまま始めると必ず途中で止まるのがこの領域の特徴です。
予算の規模については、少額から始めても評価に必要な情報が得られないという難しさがあります。到達が少なければ中間指標にも変化が出ないためです。試すのであれば、地域を絞ってでも一定の到達量を確保する配分にしてください。
配信期間は最低でも数か月を見込む
認知を作る面である以上、効果が数値に現れるまでには時間がかかります。数週間で判断すると、変化が観測できないまま終わります。期間を確保できない場合は、この面への出稿自体を見送るほうが合理的です。
期間中に配信を止めたり再開したりすると、効果の判断がさらに難しくなります。一度決めた期間は途中で変更しない前提で計画を立ててください。予算の都合で継続が不確実な場合は、期間を短くするのではなく配信量を落として期間を確保するほうが、結論にたどり着けます。
逆に、期間を確保できるのであれば、配信量を薄く広げるより一定期間に集中させるほうが記憶に残りやすくなります。同じ予算でも、配分の仕方で結果は変わります。
代理店に依頼する場合の確認事項
取り扱いのある代理店はまだ限られており、対応可否そのものを確認する必要があります。あわせて、クリエイティブの制作を含めて依頼できるか、中間指標の観測まで担当してもらえるかを確認してください。
見積もりを取る際は、媒体費と制作費、そして計測や調査にかかる費用を分けて提示してもらってください。一式で提示されると、どこにいくらかけているのかが見えず、次回の交渉材料も残りません。項目を分けるだけで、継続時の判断がしやすくなります。
運用型の広告と同じ感覚で依頼すると、配信の設定だけが行われ評価の設計が抜けます。評価の設計まで含めた提案ができる相手を選ぶことが、この領域では特に重要になります。
ターゲティングと配信量をどう考えるか
Uberは、数百万人規模の利用者から得られる膨大なインサイトが、対象の特定と理解、そしてターゲティングの精度に役立つと説明しています。移動という行動そのものが、生活パターンや行動範囲を示す情報になるため、他の媒体とは異なる軸での絞り込みが可能になります。
ただし、絞り込みを強くすればよいというものではありません。認知を作る目的で使う面である以上、到達量が確保できなければ効果は数値に現れません。ターゲティングは無駄を減らす道具ではなく到達の質を上げる道具だと捉え、絞りすぎない設定から始めるのが実務的です。
配信量の目安を決めるときは、対象地域の利用者規模から逆算します。都市部に偏る利用者構成を踏まえると、地方を含めた全国展開よりも、主要都市に絞って一定量を集中させるほうが記憶に残りやすくなります。同じ予算でも、薄く広げるか厚く絞るかで結果は変わります。
時間帯と曜日の設計が効く場面
移動の目的は時間帯によって変わります。平日の朝は通勤、夜は帰宅や会食、週末は買い物や余暇といった具合です。同じ利用者でも、置かれている状況が違えば広告への反応も変わります。商材によっては、時間帯を絞るだけで効率が改善します。
時間帯を絞る場合でも、最初から狭く設定しすぎないよう注意してください。実績が出てから絞るほうが、想定と実際のズレを発見できます。初期は広めに配信し、時間帯別の中間指標を見てから調整に入る順番が確実です。
たとえば法人向けの商材であれば、平日の日中の移動に絞る判断が合理的です。逆に消費者向けの余暇関連であれば、週末や夜の時間帯に寄せるほうが自然です。移動の目的を想像してから配信時間を決めるという順番が、この面では特に有効に働きます。
到達の重複をどう扱うか
同じ利用者が短期間に複数回乗車することは珍しくありません。接触頻度が上がるのは認知形成の面では有利ですが、同じクリエイティブを繰り返し見せると飽きが生じます。複数の素材を用意し、順番に見せる構成にしておくと、この問題は緩和されます。
素材の本数は三本から五本程度を目安に用意してください。同じメッセージを異なる表現で伝える形にすると、繰り返しの接触が理解の深まりにつながります。
他媒体との予算配分をどう決めるか
新しい面を試すとき、既存の予算を削って捻出するのか、追加の予算を確保するのかで議論の性質が変わります。既存の獲得型の予算を削ると、短期の獲得件数が落ちるため、社内の理解を得るのが難しくなります。可能であれば認知施策の枠内で配分を組み替えるほうが進めやすくなります。
配分の考え方としては、上流の施策全体を一つの枠として扱い、そのなかでの割合を決める方法が扱いやすいものです。テレビ、デジタル動画、屋外、そして移動中の面という並びで、それぞれが届く層の違いを整理します。届く層が重ならない配分を意識すると、全体の到達効率が上がります。
金額の目安については、初年度は上流予算の一割から二割程度で試すのが現実的です。効果の確認に時間がかかる領域なので、少額で長く続けられる規模から始めるほうが、結論にたどり着きやすくなります。
獲得型の予算と混ぜて管理しない
同じ広告予算という括りで管理すると、月次の獲得件数が目標に届かないときに真っ先に削られる対象になります。上流の施策は成果が遅れて現れるため、短期の数値で判断される枠に入れておくと継続できません。予算の管理単位を分けることが、継続のための実務的な工夫になります。
分けたうえで、それぞれに異なる評価サイクルを設定してください。獲得型は月次、上流は四半期という具合に、成果が現れる速度に合わせた頻度で見る形が自然です。
指名検索の増加を獲得型の成果としても扱う
上流の施策が効くと、指名検索が増え、検索広告の獲得単価が下がります。この効果は検索広告側の数値として現れるため、上流の成果として認識されないまま終わりがちです。両方の数値を並べて見る習慣を作ると、投資の意味が正しく伝わります。
具体的には、指名検索の件数と検索広告全体の獲得単価を、上流の配信量と同じグラフに並べます。因果を断定できなくても相関が見える状態を作るだけで、社内の議論は前に進みます。
導入前に社内で用意しておくデータ
出稿を決める前に手元に揃えておきたいのが、現在の指名検索の推移、サイトへの直接来訪の推移、そして地域別の売上構成です。この三つがあると、どの地域に配信すべきか、成果が出たときにどう判別するかを事前に設計できます。
指名検索の推移は、検索パフォーマンスのデータから取得できます。過去一年分の月次推移を取り、季節による変動の幅を把握しておいてください。もともとの変動幅を知らないと配信後の変化を評価できません。
地域別の売上構成は、配信地域の選定に直結します。売上が伸びている地域を伸ばすのか、まだ弱い地域を開拓するのかで、期待する成果の形が変わるためです。この判断は広告の設計ではなく事業の方針の問題なので、関係部門との合意が必要になります。
比較対象となる地域を先に決める
配信地域と比較地域を事前に決めておくと、あとからの分析が格段に楽になります。人口規模、売上規模、既存の広告出稿量が近い二つの地域を選び、一方だけに配信します。開始後に比較地域を選ぶと、都合の良い地域を選んでしまう危険があります。
地域の選定では、営業拠点の有無も確認しておく価値があります。拠点があるかないかで、広告以外の接触量が大きく変わるためです。広告以外の接点が近い地域同士を選ぶほうが、比較の精度は高くなります。
比較の期間も先に決めてください。配信前の三か月、配信中の三か月、配信後の一か月という区切りにしておけば、判断の基準が動きません。
アンケートによる想起測定を検討する
予算に余裕があれば、配信の前後でブランド想起を測る調査を実施する価値があります。指名検索やサイト来訪は行動に現れた分だけを捉える指標ですが、想起は行動の手前の変化を捉えられます。上流の施策の効果を説明する材料としては最も直接的です。
調査の規模は大きくなくても構いません。配信地域と非配信地域でそれぞれ数百人規模の回答が取れれば、傾向の把握には十分です。
クリエイティブ検証の回し方
運用型の広告と違い、この面では日々の細かな調整はできません。そのぶん、事前の設計と検証の質が結果を左右します。配信開始前に複数案を用意し、社内でも音を消した状態で確認するという手順を踏むだけで、大きな失敗は避けられます。
確認の方法は簡単です。制作した動画を音声なしで再生し、内容を知らない人に見せて何の広告か答えてもらいます。答えられない場合は、冒頭の構成に問題があります。社内の人間が三秒で分からないものは外部の人には伝わりません。
配信中の検証は、素材ごとの配信量と中間指標の推移を対応させる形で行います。細かい調整はできなくても、次の素材を作る際の判断材料は蓄積できます。
形式ごとに検証の粒度を変える
ディスプレイは要素が少ないため、比較する軸を絞りやすい形式です。メッセージの違い、色使いの違い、人物の有無といった単位で差を作ると、次に活かせる知見が得られます。
検証の記録は必ず残してください。この面は日々の調整ができないぶん、次回の出稿までの間隔が空きます。記録がないと、前回何を試して何が分かったのかが失われ、毎回ゼロから始めることになります。
動画とインタラクティブは制作コストが高いため、多数の案を並行して試すのは現実的ではありません。この二つは、ディスプレイで得た知見を反映して一本を作り込む使い方が合理的です。
制作の内製と外注をどう分けるか
この面向けのクリエイティブは、既存のデジタル動画素材をそのまま流用できないことが多くあります。音なし前提の構成、文字サイズの確保、次の行動への導線といった要件が異なるためです。既存素材の再編集で済ませようとすると、条件を満たさないまま出稿することになります。
とはいえ、すべてを一から制作する必要もありません。既存の素材から使えるカットを抜き出し、構成だけを組み替える方法であれば、コストを抑えながら要件を満たせます。編集の要件を先に伝えてから制作を依頼することが、手戻りを防ぐ確実な方法です。
移動という文脈が広告に与える影響
広告の効果は、掲載される場所そのものより、受け手がどんな状態でそれを見るかに強く左右されます。移動中という状態には、他の接触機会にはない三つの特徴があります。時間が確保されていること、他にやることが限られていること、そして目的地に向かうという前向きな気分が伴いやすいことです。
時間が確保されているという点は、動画の完視聴率に直結します。コンテンツの合間に挟まる広告は、早く終わってほしいと思われる立場から始まります。移動中の画面は、そもそも待っている時間の一部であるため、同じ長さでも受け取られ方が変わります。
他にやることが限られている状況は、情報の処理に使える余力があることを意味します。仕事中や家事の合間に見る広告とは、記憶への残り方が異なります。注意が奪い合いになっていない環境という点が、この面の本質的な価値だと言えます。
気分の影響を無視しない
移動の目的によって、受け手の気分は大きく変わります。出張の移動と、休日の外出では同じ人でも受け取り方が違います。広告の内容がその気分と噛み合っていないと、記憶に残らないどころか印象を悪くすることもあります。
広告の表現面でも、押し付けがましさを避ける配慮が有効です。移動中は逃げ場のない環境でもあるため、強い訴求はかえって反発を招きます。落ち着いた表現で情報を置いておく形のほうが、この面では受け入れられやすくなります。
気分を完全に制御することはできませんが、時間帯や地域の設定である程度は絞り込めます。空港へ向かう経路、商業施設の周辺、オフィス街といった文脈は、移動の目的をある程度示唆します。
接触の記憶が検索行動に変わるまで
移動中に接触した情報は、その場では行動につながらなくても、後日の検索として現れることがあります。この遅延があるため、配信当日の数値だけを見ても効果は分かりません。数週間から数か月の単位で推移を追う必要があるのは、この時間差によるものです。
この遅延を前提にすると、配信の開始時期にも意味が出てきます。需要が高まる時期の直前ではなく、その一か月から二か月前に接触を作っておくほうが、実際の検討時に思い出される確率が上がります。季節性のある商材ほど、この前倒しの発想が効いてきます。
実務では、配信終了後も一か月程度は指名検索の推移を追い続けてください。効果は配信が終わってから現れることがあるという前提を持っておかないと、正しい判断ができません。
他の新しい広告面と比べたときの位置づけ
近年、従来の枠に収まらない広告面が次々に登場しています。小売事業者が持つ購買データを使った面、コネクテッドテレビ、音声配信、そして移動中の面もその一つです。共通しているのは、既存のデジタル広告では届きにくい時間帯や状況を押さえようとしている点です。
これらを一つずつ検討していると時間がかかるため、判断の軸を持っておくと効率的です。有効なのは、既存の接触で届いていない層がいるか、その面でしか成立しない体験があるか、評価できる仕組みがあるかという三点です。三つのうち二つを満たさない面は見送ってよいという基準にすると、検討の負荷が下がります。
移動中の面はこの基準で見ると、届いていない層と、その場でしか成立しない体験の二つを満たします。評価の仕組みは自社で作る必要があるため、そこが導入の条件になります。
小売の購買データを使う面との違い
購買データを使う面は、獲得に近い位置で成果が明確に出ます。一方で、すでに購買意図がある層への接触が中心になるため、需要そのものを増やす効果は限定的です。移動中の面はこの逆で、需要の手前に働きかけます。
両方を運用している場合は、上流の配信量が増えたときに購買データを使う面の効率がどう変わるかを観測してください。上流が効いていれば、下流の獲得単価は下がる方向に動きます。この連動が確認できると、上流への投資の説明がしやすくなります。
両者は競合せず、役割が違います。予算配分を議論するときは、獲得の効率を上げたいのか、獲得できる母数を増やしたいのかという目的から判断してください。
導入の順番をどう決めるか
複数の新しい面を検討している場合、評価の仕組みが作りやすいものから着手するのが実務的です。成果が説明できれば次の予算が取れますが、説明できないまま複数を並行すると、どれも継続できません。
複数を同時に始めたい誘惑は理解できますが、社内の説明コストを考えると順番に進めるほうが結果的に早く広がります。一つ目で説明の型を作れば、二つ目以降はその型を流用できます。最初の一つで説明の型を作ることを目的に据えてください。
移動中の面は、指名検索という比較的取得しやすい指標で説明できるため、上流施策の入り口としては扱いやすい部類に入ります。地域を分けた比較ができる点も、説明の材料を作りやすい要素です。
まとめ:評価の設計を先に決めてから出す
Uber Journey Adsは、移動という手が空いた時間に接触できる面であり、その場で買えない商材にとって価値のある選択肢です。ディスプレイ、動画、インタラクティブという三形式と、QRコードやメール送信といった導線を組み合わせれば、比較検討の材料を手元に残す設計が作れます。
- Eats側と分けて考える。注文獲得の面ではなく認知と比較検討の面として位置づけ、評価指標も分ける
- 音なしで設計する。視線が断続的に外れる前提で、冒頭からブランドが分かる構成にする
- 中間指標で測る。指名検索やサイト来訪の推移を、地域や期間を分けて比較できる形にしておく
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